黒部の山賊―アルプスの怪



伊藤 正一 (著)

本書は昭和二十二年六月、新聞紙上をにぎわした“黒部の山賊事件”を中心にまとめあげたものだが、同時に、黒部源流に半生を過ごした作者の生活記録の一端でもある。
二十世紀のこの現代に、北アルプスの奥の奥に本当の山賊どもが棲みついていた…。山賊退治の本人がヒョンな縁から荒らくれ猛者どもと原始的でユーモラスな山の生活をおくったことや埋蔵金伝説などについて綴る。

“黒部の山賊”を報道したころ/山賊たちとの出合い/山賊との奇妙な生活/埋蔵金に憑かれた男たち―別派の山賊/山のバケモノたち/山の遭難事件と登山者/山小屋生活あれこれ/その後の山賊たち

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『二十世紀のこの現代に、北アルプスの奥の奥に本当の山賊どもが棲みついていた…。』とあるけれど、『現代』とは最近の話しではなく、この本が書かれた終戦直後の話しね。こんな時代もあったのだな。

この本の作者、三俣山荘の支配人の伊藤正一さんは、山小屋の課税方法をめぐって林野庁相手に裁判をおこし、山荘の存続が危ぶまれているような報道を読んだことがある。内容など詳しいことはよくわからないのでどちらの言い分が妥当なのか判断できないが、かつてこのような山賊を率いていた男として、自分が納得しなければ国の言うなりにならないという激しい気概を感じるね。もういいお年だと思うのだが、たしか健在ですよね・・・