漂流



吉村昭

江戸・天明年間、シケに遭って黒潮に乗ってしまった男たちは、不気味な沈黙をたもつ絶海の火山島に漂着した。水も湧かず、生活の手段とてない無人の島で、仲間の男たちは次次と倒れて行ったが、土佐の船乗り長平はただひとり生き残って、12年に及ぶ苦闘の末、ついに生還する。その生存の秘密と、壮絶な生きざまを巨細に描いて圧倒的感動を呼ぶ、長編ドキュメンタリー小説。

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最近、漁船が転覆した事故で乗組員3人が奇跡的に救出されたニュースがあった。
そこで昔読んだことのある本を再度読んでみようかという気になった。
いいねえ。30年前に出版された本なのだがとても新鮮に感じるね。現代の本は、これでもかというくらいドラマを詰めてあるけれど、この本はモチーフがいたってシンプルで、吉村さんの抑制の効いた淡々とした文体にもかかわらず、まったく飽きることなく楽しく読めました。
吉村さんの著書は何冊か持っているがどれも素晴らしいね。史実を徹底的に調査し、関係者の証言をもとに書いているらしいけれど、史実の部分はとても丁寧に書かれているし、創作であろう部分もまるでノンフィクションのように感じるよ。
吉村さんは2006年にお亡くなりになられたとのこと、このような作家はもう現れないような気がする。そんな偉大さを感じさせる一冊でした。

この本の冒頭で取り上げられていたが、桐野夏生さんの『東京島』を読んだときに、そのシチュエーションになんとなく記憶があったのだが、そうかそうか、『アナタハンの女王事件』だったのか。

アナタハンは関西弁じゃなくて島の名前だよ。ちなみにこんな出来事。

http://ja.wikipedia.org/wiki/アナタハンの女王事件

『事実は小説より奇なり』というけれど、この事件は『東京島』よりもよほどインパクトがあるぞよ。桐野さん、史実を参考にするならば、吉村さんのように・・・以下略